大学礼拝「敵を愛しなさい」2023/11/8
【ルカによる福音書 第6章27~36節】
6:27 「しかし、わたしの言葉を聞いているあなたがたに言っておく。敵を愛し、あなたがたを憎む者に親切にしなさい。
6:28 悪口を言う者に祝福を祈り、あなたがたを侮辱する者のために祈りなさい。
6:29 あなたの頬を打つ者には、もう一方の頬をも向けなさい。上着を奪い取る者には、下着をも拒んではならない。
6:30 求める者には、だれにでも与えなさい。あなたの持ち物を奪う者から取り返そうとしてはならない。
6:31 人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい。
6:32 自分を愛してくれる人を愛したところで、あなたがたにどんな恵みがあろうか。罪人でも、愛してくれる人を愛している。
6:33 また、自分によくしてくれる人に善いことをしたところで、どんな恵みがあろうか。罪人でも同じことをしている。
6:34 返してもらうことを当てにして貸したところで、どんな恵みがあろうか。罪人さえ、同じものを返してもらおうとして、罪人に貸すのである。
6:35 しかし、あなたがたは敵を愛しなさい。人に善いことをし、何も当てにしないで貸しなさい。そうすれば、たくさんの報いがあり、いと高き方の子となる。いと高き方は、恩を知らない者にも悪人にも、情け深いからである。
6:36 あなたがたの父が憐れみ深いように、あなたがたも憐れみ深い者となりなさい。」
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「敵を愛しなさい」という有名な言葉の少し前に、「あなたの頬を打つ者には、もう一方の頬をも向けなさい」、「上着を奪い取る者には、下着をも拒んではならない」とイエスは言われます。このことから、敵を愛する、ということは、全部相手の言いなりになることかと思われるかもしれません。怒りや憎しみなどをすべて押し殺して、相手に合わせることと思うかもしれません。
しかし、そうではありません。ここでイエスは、このような極端な言い方を通して、当時の人たちが思い込んでいた常識を揺さぶろうとしました。例えば、当時のユダヤ人たちの常識では、サマリア人は宗教的に穢れていると考えられていました。ですので、サマリア人を愛するどころか、彼らに接触すること自体もタブー、というのが当時の常識でありました。サマリア人以外にも、様々な人達のことを、憎むべき者たち、自分たちにデメリットをもたらす者たち、愛してはならない者たち、いわば敵として規定されていました。イエスが「敵を愛しなさい」というときの敵とは、このようにその社会から排除されている人たち、自分たちにデメリットをもらす人たち、というニュアンスを含んでいます。
私たちは、通常、人を愛するという時、その対象は、どうしても、自分によくしてくれる人、自分にメリットをもたらす人になりがちだと思います。
しかし、イエスの語る愛とは、自分にとってメリットがあろうがなかろうが、見返りがあろうがなかろうが、そんなことは関係なく、何の条件もなしに、他者を愛する、大切にする、というところにポイントがあります。むしろ、自分にとって都合が悪い人、デメリットをもたらす人をこそ、愛しなさい、大切にしなさい、と言われているわけです。
さらにイエスは、次のように続けます。 「人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい。」
人から何かしてもらったら、そのお返しに、自分もその人にしなさい、ではありません。人からなにかしてもらう、ということが前提となっていません。それでもなお、人にしなさい、ということです。何らかの見返りがあろうがなかろうが、メリットがあろうがなかろうが、自分がしてほしいと思うようなことを、人々にしなさい、ということです。
自分への見返りもなく、なんの条件もなしに、他者を大切にすることができるのだろうか、と思われるかもしれません。しかし、私たちの柳城が大切にしている保育こそ、実はそのようなものではないかと思います。保育の現場において、子どもたちからの見返りは期待していないはずです。この子が大人になったら自分にこんなことをしてくれるかもしれない、だから大事にしようとか、条件をつけることはないはずです。その子の将来がこうなるから、ではなく、目の前にいる一人ひとりのこどもを、そのまま大切にする、ということが、保育にとって重要な原則であろうと思います。
「敵を愛しなさい」と言われたイエスは、何ら見返りを期待することなく、目の前にいる人たち、とりわけ社会から排除されていた人たちに徹底して寄り添いました。当時の社会では一人前と見られていなかった子どもたちを、一人一人大切な人間として大事にされました。そして、十字架によって死に至らせた人たちをも愛されたのでした。神様は、イエスの生涯を通して、私たちに見返りを求めない愛を示されました。このような神様の愛の質を私たちは様々な場において大切にしてまいりたいと思います。 (チャプレン 相原太郎)